年末に休みがあった。
例年、妹が甥っ子・姪っ子を連れて帰省してくるのだが、今回は帰省しないという。
こんなチャンスはめったにない。
どこか山に行こう。
28日から最大で元旦まで使える。
当初は、氷ノ山を考えていた。
伊吹山か大峰山地もいいな、と考え始めた。
四国の剣山もいいかな・・・と考えているうち、決められないまま日が経ってしまった。
28日は前日までの疲れが残っていて、やり残したことを片付けていると、山の準備ができなかった。
結局、行き先は近場の芦生に落ち着いた。
29日、朝10時の広河原行き京都バスに乗るつもりが、これも準備が遅れて、タッチの差で逃す。
叡山電車で鞍馬まで先回りしようと思ったが、これもダイヤの都合で京都バスに追いつけず。
計画がどんどん後ろ向きになっていく。
叡山電車を終点:鞍馬で降りる。11時前。
そこから花背峠のほうに向かって歩く。
歩きながら、①次のバスを待つ、②どこか別の行き先を考える、③家に帰って明日 出直す、の選択肢を考えていた。
②の線で考えていたが、2015年を締めくくるのにふさわしい場所が思い浮かばない。
とにかく歩く。
①が有望だが、次のバスは4時間以上も後だ。
じっと待つのは寒いし馬鹿らしい。
どこかの店で本を読みながらビールでも飲んで待つのが一番だが、鞍馬寺門前は観光客が多い。
となると、花背峠を越えたところにある喫茶店だが、年末年始で営業しているかどうか…
ま、とりあえず歩いて花背峠は越えようと思った。
途中でバス道から外れて、名も知らぬ林道に入った。
なかなか心地よい道で、途中、古びたナメコも見つけた。
が、南、つまり花背峠と反対の方向にどんどん向かっていく。
いずれどこかで「鞍馬山-旧花背峠」間の道に合流するのだろうが、あまりに遠回りになりそうだ。
そこへ、楽に鞍部に出られそうな谷間があり、踏み跡もあったので、そちらに入った。
道というほどではないが微かな道筋がわかる。
杉林の中の楽しい道だった。
尾根に出て「鞍馬山-旧花背峠」間の道に合流。
今年の積雪期に歩いた道だ。
寒空だが、晴れていて明るく、快適。
つい先日 来たばかりの旧花背峠に出る。
たぶん、13時ごろだ。
下って「旧道別れ」に出る。
まもなく花背別所の集落。
このあたりから、空が曇り、寒さが増してきた。
雪とみぞれの中間みたいなのが降る。
喫茶店は営業していなかった。
他の店もやっていない。
花背山の家も、この日は「満室で入れません」と。
雨雪が強くなり、合羽を羽織る。
どこにも雨宿りする場所がなく、ひたすら歩く。
別所から次の集落である大布施までは4キロほどだが、歩くと異様に長く感じる。
その間、休憩する場所もほとんどない。
今回は、芦生に行って、適当な場所にテントを張り、そこで焚き火をしながら、読書をする、というプランだった。
あまりガシガシ歩くつもりはなかったので、荷物も重めだ(酒が多い)。
だが、結局、一生懸命 歩くことになっている。(早起きしなかった罰だ)
ま、この区間を徒歩で通過することもそうはないだろうから、いい機会だと思うことにする。
この区間の川(別所川)は、わたしが子供の頃に改修されてコンクリートの河床・護岸になってしまっているが、父がよく
「俺が釣った最大のアマゴは、ここで釣った」
と言っていた場所だ。
あれから40年近くたって、河床にも適度に岩や土砂が堆積し、それなりに魚が棲めそうな姿になってきた。
いま釣り糸を垂れたら、どうだろうか。
大布施の数百メートル手前、小野谷の出会いのカーブに神社があり、そこでやっとサックを下ろして一息つける。
大布施のJAの前にやわらかいベンチがあり、そこで大休止。
たしか15時前くらいだ。
甘い物でも買えるかと期待したAコープは、結構以前に閉店となっていた。
この時点で、鞍馬から15キロ歩いている。
それなりに疲れてきた。
雪雨も降っているので、ここでずっとバスを待とうか、それとも更に2キロ歩いて「交流の森」で待とうか…
「30分かかって『交流の森』に行ったところで、あんまりのんびりとビールも飲んでいられないし…」
などと、しばらく思案しつつ休んでいたが、じっと座っているのも寒いので、やっぱり歩くことにした。
この段階ではすでにプランができていた。
京都バスに乗って「下の町」で降り、早稲谷川沿いの林道に入る。
今夜はその途中でキャンプし、翌日、小野村割岳を越えて芦生に入る。
芦生で2泊するつもりが1泊になってしまうが、それは仕方がない。
で、「交流の森」に向かったが、手前の春日神社で雨宿り&バス待ち。
本を読む。
わたしは、年末年始の読書に「こだわる」タチで、1冊の本を年を跨いで読むのが嫌いなのである。
年末にきっちりと読み終えて、新年には新しい本を読み始めたい。
そして、年末年始に読む本もどんな本でもよいわけではなく、「今年の締め(トリ)」「一年の読書は元旦にあり」で慎重に選ぶ。
今年最後の本に選んだのは『デルスウ・ウザーラ―沿海州探検行』平凡社東洋文庫)である。
だが、もう半分ほど読み終えていて、あと3日もかからない。
もう1冊読める。
で、退屈しないように、もう1冊 持ってきたのが、和辻哲郎の『風土』岩波文庫)。
これは既に家に持っているのを忘れていて、先日 古本屋でダブって買ってしまったものだ。
同じ本が2冊あっても仕方ないので、読んだページから焚き火で燃やすつもりで持ってきた。
今年最後の本は『デルスウ・ウザーラ』だと決めているので、先に『風土』から読破しなければならない。
春日神社で雨宿りしながら『風土』を読み進めていった。
30分以上、そうやってバスを待っていたが、やはりじっとしていると寒いので、歩くことにした。
雨も止んでいる。
すぐに「交流の森」。
喫茶や食事ができると幟が立っているが、どっちみち年末年始は営業していなかった。
鞍馬から17キロ以上歩いた。
まだバスが来るまで時間があるので、ゆっくりと歩いた。
「教会前」でバスが来る10分前。
そろそろいいだろうと歩みを終えた。
16時23分、ちょっと遅れてバスが来た。
「下の町」の手前で運賃が急激に上がり、「なんでやねん」と思いつつ、「下の町」で下車。
町名は「下之町」だが、バス停名は「下の町」なのが気になる。
バスを降りて林道を進む。
まもなく一軒の家があり、そのすぐ後にダムがある。
そのダムの上流が広い河原になっている。
わたしが常宿にしているキャンプサイトだ。
ここには某会社のキャビンがある。
以前、ここでキャンプをして、早めに寝ていたら、夜遅くキャビンの持ち主たちがやって来て騒ぎ出した。
うるさいし、かと言って場所を借りてるのは自分のほうだし…で、荷物をまとめて数百メートル奥へ引越ししたことがある。
それ以来、ここでのキャンプは避けていた。
今回もここを見送って、さらに奥地で探すつもりだった。
が、改めて見るに、絶好のキャンプサイト。
薄暗くなってきてあまり時間もない。
年末のこの時間から、こんな寒い場所に、企業の連中がやって来ないだろう、と判断して、ここに泊まることにした。
さっそく焚き火の準備にとりかかった。
薪は多い。杉葉も豊富にある。
だが、雨雪で湿っている。
少々湿っていても火を起こす自信はあるが、すぐに暗くなってしまい、十分な杉葉を集めることができなかった。
燃やすつもりで持ってきた『ゴルゴ13』のページを破って着火するが、なかなか杉葉に燃え移らない。
燃え移っても、すぐに消えてしまう。
あきらめて焚き火なしで夜を過ごすことにした。
日本酒とウイスキーを傾けながら、『風土』を読み飛ばしていく。
(つづく)
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